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モノの経歴

モノの経歴は、ほとんどの場合、誰にも記録されない。

いつ買ったのか。
どこから来たのか。
どれくらい使われて、どこに置かれ、どんなふうに役目を変えてきたのか。

そういうことは、たいてい忘れられていく。

床に置かれた電源タップがある。
四つある差し込み口のうち、一つはもう電気が通らない。
実家から持ち込まれたもので、勤続年数はおそらく二十年以上になる。

部屋の中では目立たない。
いつも床にいて、ほこりをかぶり、時々足で少し蹴られる。
それでも、パソコン、スマートフォン、ヒーター、扇風機。
いくつもの道具たちのあいだを、黙ってつないでいる。

部屋の中の事情通だが、秘密は決して洩らさない。
そういう顔をして、今日も床にいる。

電源タップ、椅子、マグカップ、カーテン。
どれも最初から今の顔をしていたわけではない。
新品だった時期があり、よく使われた時期があり、場所を変え、役目を変え、少しずつ今の顔になっている。

傷や皺や置き場所には、少しだけモノたちの経験が残っている。
それを読むように身のまわりを見ると、部屋はただの部屋ではなくなる。